「人魚と過ごした夏」装画の描き方
「人魚と過ごした夏」装画の描き方
蓮見恭子さんの「人魚と過ごした夏」の装画を描きました。
水中の華・アーティスティックスイミングでオリンピックを目指す女子高生と、ぼっちのオタク女子の出会い。ちょっと風変わりな関係のドラマ
現代的な要素もふんだんに盛り込まれ、思わずふふふっとわらっちゃう場面、スイマーとして真剣な高校生のまなざし、友人関係などさまざまな要素を魅力的な人物描写で彩られています。
この夏の読書に是非どうぞ。
装画の描き方
今回は私の装画の描き方についてお話ししたいと思います。
今までに何度か機会がありお仕事させて頂きましたが、私にとって本のカバーを描くというのはとても特別で楽しく、魅力的なお仕事です。
と同時に、「ジャケ買い」という言葉があるように、本の売上を左右する大事な要素でもあるので毎回とても緊張して描いています。私自身本屋さんを歩いていて、このイラストいいな、この絵の雰囲気の小説ってどんなだろうと手に取るぐらいですから、たくさんの方がこのように買う本を決めているはずです。
それから、まだ世間にでていないほやほや出来立ての原稿を読んで感動したこと、思ったことを私なりに表現してみたいとも思います。
自分の世界観と、作者さん、編集さん、デザイナーさんの気持ちをひとつにまとめて絵を描いていくのが装画を描くイラストレーターとしての役割ではないでしょうか。
自分の気持ち、だけではだめなところがポイントです。
ラフを描く
原稿を読んで、ラフを描きます。
通常、ラフ制作に2週間、本画制作に2週間あれば私としては十分ですが、かなり急ぎのお仕事の場合はこれの半分だったりさらに半分だったりします。
イラストレーターになりたての時は仕事が来ただけでうれしくてどんなお仕事も受けていました。(そして自分の首をしめることに。。)
けれど現在は並行するお仕事の量や、子供の体調を考えながらお受けするか考えています。断るときは断崖の絶壁のふちに立たされた思いで断っています!やりたかった、、けどできない、、みたいな。
こちらのラフはかなり不思議な光景になっていますが、実際の小説のワンシーンを描いたものです。
少女のうちの一人が自宅に練習用のプールをもっていて、もう一人がその練習風景を下から撮影するという場面です。
ああ、この場面いいな、と即座に思いラフをいくつか描きました。
ラフはスケッチブックに鉛筆で描いて、そのあとそれをみながらプロクリエイトで描いています。
フィードバック
いくつか出したラフの中から、編集さんとデザイナーさんが絵を選んで、仮のタイトル文字と帯を入れて返してくださいました。
私はシンクロの経験者(たまたま小学生のとき少しだけやっていました。)なので普通の人がどんな風の思うのかわからなかったのですが、シンクロナイズドスイミングといえば一般的には水の上から足がでているものだと思っていました。
でも、タイトルに「人魚」と入っていたので、水の中で演技しているのでもいいのかなと思ってこちらも混ぜておいたらお二人が選ばれたのはこの絵だったので少しだけびっくりしました。
デザイナーの藤田さんがあてはめてくださったタイトルや帯の位置をみながら改めて人物やプール、地面の場所がここでいいのか確認します。
タイトルと著者名はとても大事なので、そこに邪魔な要素(水の泡とか人物とか)なるべくかからないようにします。
最終データはフォトショップのPSDデータでお渡しするので、デザイナーさんが動かせるようにつくったりもします。
今回はホックニー先生の絵をたくさん見て参考にしました。
7/15日からデイヴィッド・ホックニー展が東京都現代美術館でありますね。大ファンなのでいまからワクワクしています。
私は色彩があんまりわからなくて、ついつい彩度の強い色を選びがちなのですが、ホックニー先生(勝手に先生と呼んでる!)の自由な色使いにいつも励まされます。もっともっとこんな風に自由に表現したいです。
最終仕上げ
1回目の色校正をみて、右の女の子を黒系から赤紫系にすることにしました。髪のゴムの色をシンクロしている二人の水着の色に合わせたりもしました。
今回はピンクバージョンもつくりました。
黄色×水色だとなんだか強すぎる気がしたんですよね。
水着のピンクも抑えめにしました。
しかし採用されたのは前者の方です。
見本到着
さてさて、できたての見本が出版社より届きました!
いつもどきどきしながら開封します。
カバーを外すとこんな感じ。
人魚たちがいなくなり、空っぽのプールですが、なんだか物語を予感させるような雰囲気に。
最初のページをめくると、透ける紙がつかわれていてとても涼しげです。
このような仕上げの作業はデザイナーさんのさすがのセンスで毎回うっとりしています。
今回もとても楽しく、そして緊張しながらお仕事させていただきました。
蓮見さんの前回の小説、「襷を、君に。」もすっごくおもしろいので読んでください。デザイナーも同じくHEMPの藤田さんです。
関連情報